AMERICAN WOOD DESIGN AWARDS 2006

udf2005-08-21

アメリカの木材を、構造材や内外装などに使い、日本国内につくられた建築や住宅、その他の木質構造物を対象」としたコンクール。
今時、米国材を使わずに木造建築が建つ例は非常に少ないと思われるので、ほとんどの木造建築が応募可能と言うことだろう。特にアメリカ材の使用量の規定は無い様に見える。とは言え、過去の入賞作品を見ると、それなりに木材が「主張」した部分がないと評価はされないようだ。
■審査員は、隈研吾氏、播繁氏(構造家・SE工法の提唱者http://d.hatena.ne.jp/udf/20041027)、藤森照信氏、ロバート・ハル氏(建築家・68〜72年アメリ平和部隊としてアフガニスタンに駐留。)
■主催:全米林産物製紙協会
詳細は⇒http://www.awda.jp


日本の木造建築の現状は、アメリカ産木材抜きに成立しない状態になっていることは、異論の無いところだと思う。チョット長くなるが、米材について篠田銘木店」が「外在の知識」と言う特集を『木』と言う雑誌で組んだことが有るので、それを参考に少しまとめておく。1970年のものなので、市場性などはまったく条件が変わっているが、素材としての内容は基本的に変わることが無いので、参考になると思う。
ベイツガ(Hemlock)多分一番使われている米材と思われる。ベイツガについては良い評判を聞いたことが無い。以前「農林省」の技官の論文で、「ベイツガはアメリカでは薪として使われている」と書いてあるのを見たことが有る。
ベイツガに関する『木』の記述は以下のとおり(上村武氏:「木材の実際知識」などの著者の文章)。

米材のうちではベイツガ(Hemlock)が最も多量に輸入され、米材の半分以上を占めています(1970年当時)。このベイツガの一番の欠点は腐りやすく、もろいということです。これは日本でいえばツガの種類で、日本のツガと植物学的に同じ種属です。従って性質も大体同じようなものです。ですから、少しこわいような感じがするけれども、割れが入りやすいのです。また、腐りやすさという点では、非常に腐りやすく、日本のツガよりも腐りやすい。この木がなぜ日本に大量に入ってくるかと言うと、アメリカ本国ではベイツガという材は大して使いものにならないものとされており、非常に値段が安いからです。ところが日本では木材の生産がなかなかできなくなってきている――スギも払底してきており、ヒノキはべらぼうに高くなってきている――ので、スギの代替として、いわゆる構造材として、非常に使われだした。現に安普請の建築にはどんどん使われていますし、この頃はもう必ずしも安普請ではなくても使われているような状態なのです。このようなことからベイツガの輸入量が非常に多いのです。

郵政「省」の標準仕様書でも構造材・造作材ともヒノキの代用樹種としてベイツガを使うことを禁じていた。松・杉の代用樹種としては認めていたが、特記仕様書の中で代用樹種を禁止する項目があり、台所や洗面所など湿潤な環境の部分にはベイツガの禁止を特記していた。造作材としてもヘンな汚れが見られたり、かなり監理に気を使うことになる。
ベイツガについてはかなり問題があったようで、同じ頃出たものと思うが、同じく上村武氏の『ベイツガ論(木造建築についての十二話――その六)』と言うものがあり、ベイツガについてかなり詳しい分析をしているので、少し引用しておく。

ツガ(ヘムロック)という木は、世界に十種類あるといわれる。北米を主として、東アジア、遠くはヒマラヤまで分布しているが、ヨーロッパには天然には存在していない。・・・・・北米には、ウエスタンヘムロック、イースタンヘムロック、マウンテンヘムロック、サウザンヘムロックの四種類がある。・・・・・米材としてわが国に入ってくるのは、貴重材は別として西海岸のものばかりであるから、・・・大陸横断輸送が高くつくからである。われわれがベイツガと称している材は、ウエスタンヘムロックである。
・・・・・・
ベイツガの材質は、おおむね米材でいえばベイマツとスプルスの中間程度である。硬からず柔からず、加工もとくに困難ではなく、強度もスギよりは強い、仕上げも比較的容易であって、磨けば光沢が出る。色はいくらか青みを帯びた白色〜淡褐色であって心材はやや色が濃い。年月を経ると色はやや濃くなってくる。北米ではベイマツの代用として、ベイマツほど強度を要しないところに使われている・・・・・・、しかし、世の中は何ごとも上手いことばかりあるものではない。ベイツガにも欠点はある。そしてそれがベイツガの価値をスギ以下に引き下げている。
・・・・・

と言うことで、欠点についての話が始まる訳だが、基本的には『木』の文章と同じ論調だが、ここでは欠点を指摘されるに至った経緯として、ベイツガが乾燥しにくい樹種であること、その結果「割れ」や「狂い」が生じやすいと言うこと。ベイツガは材質のばらつきが大きく、見分けがつきにくいモミが混入していることも多い。北米ではモミとベイツガの集団をヘムファー(ヘム=ヘムロック、ファー=もみ)と呼んでいる。

いわゆる「ベイツガ」の材質は幅が広いものとならざるをえない。つまり、ベイツガにはかなりの低質の部分が混入している、と言いかえてもよいであろう。そして悪いことには、日本のバイヤー達は、どうもなるべく安い材を、つまりこの低質の部分を買いつけているらしい。低質の部分を買っていると言えば言いすぎになるがその傾向が強いことは確かであろう。・・・・・

ちなみに、腐りやすいことのデータとして、以下のようなデータをあげている。

たとえば、ヒバの心材を腐れやすい状態において20年の耐用年数であるとすれば、スギの心材は15年、スギの辺材は5年、ベイツガは心材でも5年と言うデータがある。・・・土台や柱の基部、大引、根太、窓かまち、などなど、湿気や水気を呼びやすい場所にベイツガを使ったら、腐れは早く、家の持ちは悪いことになる。事実、安普請や低質の建売り住宅に間々そういうことが起こるわけで、これがベイツガの評判をおとす大きい原因になっている。・・・・・

ただし、薬剤の注入に適した材であるので、最近では薬剤処理をしたベイツガの土台が出回っている。
ベイツガに終始してしまったが、どうしても米材で注意する必要がある材として、記憶にとどめる必要があるので、ついつい長くなってしまった。そのほかの米材としては、以下のものがあるようだ。
ベイマツ(Douglas fir):「マツに似ているけれどマツではなく、日本でいえばトガサワラ(四国にただ1種類しかない)と同じ種属。」「強度・耐久力などは特に問題なく」わが国でも、梁などの横架材として一般的に使用されており、スギよりワンサイズ小さく出来る。アメリカでの合板の生産量は非常に多いようであるが、わが国のようにラワンではなく、このベイマツで作る。かなり昔、このベイマツ合板を仕上げ材に使うことが流行ったことがあったが、今でも時々住宅雑誌などで見かけることがある。
ベイスギ:「日本では色は違うが、ネズコの種属。・・・これはスギのやわらかいものよりももうちょっと弱い。」加工もしやすく水湿に強いと言うことで、アメリカやカナダでは屋根瓦をベイスギで作って葺く。これも一時期「シングルスタイル」と言うことで、チャールズムーアなどのスタイルにならって、日本でも防火規制の掛からない別荘などに良く使われた時期があった。
ベイヒ:「Port Orford white Cedarと言うことで、ヒノキの種属」なので、国産ヒノキの代用樹種として使われる。
ベイヒバ:「黄色い色をしていて、日本のヒバに良く似ていて、腐りにくいと言う特徴があるが、ヒバではなくヒノキの種属。」青森ヒバは使いたくても高くて使えない。耐久性、耐蟻性などヒノキよりもすぐれている部分があるので、青森ヒバを使いたいところだが、ベイヒバで間に合わせることがよくあるが、それでもコスト的にはかなり高いものになる。
スプルス:「日本でいえば、北海道のエゾマツ、内地のトウヒ属。素性がよく建具などに良く使われている。ベイツガより多少ましだが腐りやすいと言う欠点がある。」造作材でスギなどの代用樹種として施工者からよく提案されることがある。宿舎などはスプルスで施工することが良くあった。ローコスト住宅ではスプルスよりも安い『ウンスギ・雲杉(「中国の雲南省四川省チベットなどに生育するマツ科トウヒ属の針葉樹」クモスギとカナをふっているサイトもあるようだが、現場ではウンスギと呼んでいた。中国スプルスとも言うようだ。)』を使うことが多い。
その他:「サウザンイエローパイン以外はマツより大分弱いので、パインの名にまどわさず気をつけなければいけません。」

と言うことで、建築コンクールの話が、木材の話になってしまった。米国材のほかにも国産材・北洋材・南洋材などあるが、それはまた別の機会にでも。
建築に関るものとして、デザイン力(「形」だけでなくプランニングや空間の作り方、それになんと言ってもdetail)と素材や施工に関する知識がともに必須であることはいまさら言うことではないが、現場に出て、ヒノキとスギの区別もつかないようでは困るし、建築の質を維持するための監理も出来なければならない。
年齢に関係なく、常に学ぶことを忘れてはいけないわけで・・・。やはり、すぐ忘れるので、それなりの努力は必要。

木材の実際知識 (商品知識シリーズ)

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棟梁も学ぶ木材のはなし

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